蒼い瞳1

新庄一雄はこの所少し憂鬱な日々を過ごしていた。
理由はご多分に漏れず、会社の経営の事である。
この年、衆議院議員自由民主党総裁小泉純一郎
第87代内閣総理大臣に任命された年である。
補助金削減、加えて地方交付税と財源対策債とを合わ
せて約2兆9000億円が削減された。
これにより地方自治体に大きな衝撃を与えた年であった。

 

そんな影響が地方の中小企業にもジワジワと影響が押し
寄せ、会社の舵取りも難しくなってきていた。
新庄の会社は官庁関係の仕事が全体の30%を占めていた
当初は随意契約が多く経営もそこそこ安定していたが
最近は参入会社が増え入札による契約が多くなり、酷い時は
50%ダウンで落札する業者も増えてきていた。
 
そんなある日の午後、役所勤めの旧友の渡部から誘い
があり夕方落会う事に決めた。
心のなかの鬱積をぶつける良い機会だと思うだけで
少なからず心が晴れる自分がいた。

 

待合せの駅前に行くと彼が手を振っていた、少し小太り
の愛嬌のある顔が新庄の心を和ませてくれる。
いやに今日は張り切っている様子、居酒屋の席について
飲み始める、彼は余り飲めないのでもっぱら新庄が引受る
ひととき役所の人事の事や、上司の愚痴を聞かされた。
彼も後2年で定年になる、我々民間とは話の内容に開が
あり口には出さないが恵まれているなと思う。
 
小一時間お互いの近況を話した後、店を出た。
渡部は上機嫌で、今日はお前に面白いところを案内する
と言い、さっさと歩きだした。
タクシーを拾い15分くらいの駅前に着いた
こんな所に何が?
怪訝そうにしていると彼は目の前のビルに入っていった。
エレベーターで5階のフロアーに降りると分厚い扉が有り
彼は振り返りもせず扉を開けて入っていった。